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裏切りは計画的に 1

Auteur: 花室 芽苳
last update Dernière mise à jour: 2025-08-01 13:05:10

「朝陽《あさひ》さん、この女性はどうしましょう? このまま警察に突き出してやりますか?」

 耳元で大きな声を出すのは止めて欲しい。きっと神楽《かぐら》 朝陽にも、充分聞こえてるでしょうし? だけどそんな私の考えを見透かしたように、眼鏡のレンズ越しの瞳がスッと細められたことに気付いた。

 多分……というか、間違いなくこの男は性格が悪いのだろう。普段はあまり役に立ってくれない直感が、私にそう伝えてくる。

「そうだな、せっかくだから俺にこんな挨拶をしてくれた理由を聞いておくのも有りかな。恨みをかう事は珍しくないが、この俺に直接的な攻撃をしてくる女性は稀だし?」

「ですが、朝陽様……」

 有無を言わせない目付き、とはこういうのを言うのだろうか? スタイリッシュな眼鏡の奥の瞳は、切れ長でそれだけで相手を圧する強さがあった。

 婚約破棄されたことで感情的になってここまで来たが、どうも喧嘩を売る相手を間違えてしまった気がする。だけど……

「元々はアナタの所為でしょう? 神楽グループの御曹司ともあろう人が女性に不誠実な所為で、私は流《ながれ》に婚約破棄されたのだから」

「……あぁ? 誰の、女癖が悪いだって?」

 私の言葉に神楽 朝陽はあからさまに声のトーンを落とす。後ろの取り巻き立ちも「何言ってんだ、コイツ?」と言わんばかりの表情をしてて、ちょっと鬱陶しい。

 ……でも、この反応ってちょっと変じゃない?

「その、流とは何だ?」

「彼を、知らない? 守里《もりさと》 流、彼はこの会社の営業部のエースで……」

 そんなはずはない、だって。流はこの人に目を付けられたと言っていた。

 だけど急に自信が無くなって。どんどん小さくなっていく私の声を、神楽 朝陽は聞き逃さない。

「営業部のエース、守里 流だそうだ。知っているか、濃野《のの》?」

「えっと、ああ。あの有名な守里ですか……?」

 有名と言われて何となくホッとした。やはり流はこの会社の、優秀な社員で間違ってなかったのだと。

 けれどもそう話しかけた男性の表情が、苦虫を噛み潰したようなものだったことに一抹の不安も感じていて。

 焦りを誤魔化すために、必要以上に強気な態度に出る。そんなことしても私が拘束されている事に変わりはないのだが。

「そうよ、その守里 流! 自分の女性関係の後始末を押し付けて、彼を解雇しようだなんて……貴方はどうかしてるんじゃないの?」

「……ほう、そうなのか?」

 神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》は、そんなこと初めて知った。と言わんばかりに、さっきの男性にその事実を確かめている。

 やっぱり、何かがおかしい。流は私に、この人の所為で自分は神楽グループをクビになると間違いなく話していたのに……

 全く話が嚙み合わない、そう気付いた時にはもう遅かった。

 そもそも……私がとった行動が、元カレの流にとっては予想もしない事だったなんて考えてもいなかったから。

「守里 流は、営業部でも有名ですからね。万年営業成績最下位の給料泥棒だと。それにとても女癖も悪い、取引相手の奥さんにまで手を出した事があるという噂もありましたし?」

「流が、営業成績最下位? 取引先の奥さんに手を出していた……って、え?」

 ……何それ? 私はそんな話、流から一度だって聞いてない。

「それに……あの方の、遊び相手のうちの一人でもありますしね」

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